飼育における壁


 ボールを飼育する上で、まず最初にぶちあたる壁が「食わない」です。
これは様々な要因から発生する現象で、一概に『これを実行すれば解決!』とはなりません。
マニアから初心者まで、昨今の飼育者はネットによる情報収集が容易になった為か、安易に答えを求めます。
しかし、みなさんの飼育環境がそれぞれ異なるうえ、ボール自体の個体差も絡み、そう簡単には解決しないのです。
そこで、今一度自分の思い込み等がないか、飼育環境を見直してみようというのがこのページの狙いです。
そしてその裏には、飼育環境を一切書かずに「ボールが餌を食べないのでアドバイスください」という無茶な質問を回避するたm(略

・最も思い込みが多いのが「ちゃんと保温している」という点。

これは初心者に本当に多い間違いです。
例えば6畳〜8畳の部屋で、ボールを入れているケージは概ね60cm水槽ほど。
蓋は密閉という程ではないが、そこそこ気温が保てるような形状。
ヒーターは定番のピタ適をケージの下(外)に敷き、ケージ底面の内面温度を測ると33℃。
この情報だけ見ると、特に問題があるようには思えない。
しかし、ここに落とし穴があります。
最近の住宅は気密性に優れているとは言え、冬場のエアコン無しでは屋内でも15度前後まで下がります。
その環境で、自室にはケージの下にピタ適1枚では、それはボールにとって健全な環境は保てません。
想像してください。あなたは広い体育館にホットカーペット1枚だけ敷いた環境で一冬越せますか?
雨風雪はしのげますが、気温は15℃で、布団や毛布も無しですよ(笑)
確かにホットカーペットの真上は30℃あっても、床に接触していない部分から熱はどんどん奪われます。
人間なら上着を着たり、寒さを訴えて改善要求が出来ても、ケージ内にボール用の上着はありませんし、彼らとの意思確認も不可能です。
結果、ボール達はヒーターの上から動かず、餌すら食べずに暖かくなるのを待つのです。
このような間違った飼育は本当に多いです。
では、どうすればこれを改善できるのか。
それには何パターンかありますが、どれもさほど難しくありません。
まず一番簡単なのが「エアコン常時ON」です。
電気代さえ許されれば、これほど簡単な解決法はありません。
理想は暖房設定で28℃、妥協しても25℃で稼動させれば、ボールのケージ内も快適な温度が保てます。
もちろんピタ適も併設ですよ。
しかし、昨今のエコブームの中、なかなか常時エアコンは難しいのが現実です。
数十匹を飼育しているならともかく、2〜3匹の為に人間がいない時間もエアコンを稼働させるのには抵抗もありますよ。
そこで低コスト対策の要「ケージを断熱材で覆う」です。
もちろん観察する面と、空気の流動を確保する最小限の穴は作りますが、ケージ表面を断熱材で覆うことで、保温効果が大幅にUPします。
断熱材の素材は、薄めの発泡やらウレタンボード等なんでもアリですが、おすすめはコタツの下に敷く銀色のシートです。
おなじみ100均でも売っていますし、採寸ミスで裁断を失敗してもサイフに優しい素材です。
これをケージの底面積より少し大きめに切って敷き、その上にピタ適を敷いてからケージを設置します。
こうする事で、底からの冷えが止まります。
次にケージの左右と背面を覆うようにカットして貼ります。貼り方は好きなように貼ってください。通気が必要な場合、数箇所穴を開けます。
上部は照明設備等がある場合は適当に避けて貼ります。
見た目は銀色になるのでインテリア的に厳しいかもしれませんが、驚くほど保温できますので、ボールの活性が上がります。
これで餌を食べてくれれば、問題解決です。
がしかし、そう簡単にはいきません・・・。

・「ちゃんと餌は温めている」の誤解、これも多いです。

私はマウス専門で育てているので、ラットではなくマウスで話を進めますが、驚くような話を聞いた事があります。
それは「冷凍マウスを熱めのお湯で解凍してから与えているけど、ぜんぜん食べない」という相談でした。
詳しく聞くと、約48℃のお湯で確実に芯まで解凍してからボールに与えても、見向きもしないというのです。
凍ったマウスを直接お湯に浸したり、匂いが飛ばないようにマウスをビニールに入れて解凍したり工夫しても、結果は同じだと。
飼育環境も特に問題はなく、アドバイスに困りました。
そんな時はボール飼育者特有の言い訳「季節拒食じゃないかなぁ?」とごまかしますが、本心では納得できません。
必ず原因があるはずなのです。
ちなみにこのパターンも間違いが潜んでいました。
結論を先に書くと「お湯で解凍はしたけど、マウスは冷たい」です。
確かに人間の食材は解凍する際に火が通らないように戻しますよね。
この飼育者も、芯まで柔らかいけど冷たい状態でマウスを与えていたのです。
魚や肉やなら、冷たい解凍は料理上手なのかも知れませんが、ボールに与える場合はマウスが35〜36℃ぐらいないと厳しいです。
この辺は、アドバイスする側の飼育者の常識がネックになり、なかなか答えにたどり着けないパターンです。

冬の拒食は季節的な要因の罠。

もう聞き飽きるほどよく聞くのが「冬に餌を食べないのは休眠期だから問題ない」という定説です。
しかし、毎年コンスタントに繁殖を行う飼育者に聞くと、おおむね「冬も食べるよ」とアッサリ答えます。
当然我が家でも、冬だから餌の消費が大幅に減るなんて事はありません。
産卵間近のメスは流石に食べませんが、交尾しながらでも食べる個体は食べます。
この中途半端な定説、半分は正しいのですが、半分は間違っています。
季節を感じる器官がどう作用しているのかは知りませんが、ボールは「冬」に繁殖行動を行います。
交尾したり排卵したり産卵したり。
あ、産卵は春が多いですが、一連の流れは冬からスタートします。
そして、冬はどうしても飼育環境の温度が下がり、ボールの活性が鈍ります。
そうなるとボールは餌を食べなくなります。
そしてこの同じ時期、ボールの繁殖行動が始まるのです。
はい、「繁殖時期=冬=拒食」の定説誕生です。
ここで厄介なのが、本当に冬になると食べなくなるボールが存在するからなんです。
しかし、冬に餌を食べない個体も存在しますが、逆に夏でも食べない個体は存在します。
「冬だから休眠期で、餌を食べないのが当然」ではなく、「寒いから活性が落ちて餌を食べないのが冬」だと思うのです。
結果、食べなくても死なないのであれば、どちらでもいいのかも知れませんが、繁殖を目標に飼育しているのであれば、改善すべき課題だと思います。
実際に冬季の数ヶ月間に餌を食べさせるのと食べさせないのでは、その後の成長にも大きく影響しますので。
ちなみにですが、我が家では6月〜8月に生まれたボールを、その年の年末までに1kg近くまで育て上げます。
全ての個体が1kg近くまで育つわけではないですが、それでも700〜800gにはなります。
これらの点から「冬だから拒食しています」という姿勢は、半分正しくて、改善できるので半分間違えなのです。

 * FH個体は、その性質から季節に関係なく頑なに食べない個体が存在しますので、この定義は当てはまりません。

「食べなくて当たり前」の考えは素人の意見
ボールは食べなくて当たり前だから気にしないという話もよく耳にしますよね。
食欲にむらがあるので、水さえ与えておけば大丈夫って意見です。
これは完全に誤解です。
確かに水させ与えておけば、すぐに死んだりはしません。
ですが、それは『死なない』ってだけで、ちゃんと飼えてるわけではありません
もちろんボールには健康とか幸せなんて概念は無いのかも知れませんが、だからといって人間の都合に合わせて解釈したらだめです。
これが仮に犬や猫だったら、動物虐待で騒ぎになりますよ。
たまたま人間に嫌われている蛇だから、たぶん大きな騒ぎになりませんがね。
正しい環境で正しい給餌をすれば、ほぼ食べてくれます(ほぼって言葉を使うのは責任回避の為です)。
食いが悪い個体も存在しますが、数ヶ月の拒食は自慢できるような話ではないので、周囲に愚痴るのはやめたほうがいいですよ。
また、似たような話ですが「ボールが食べないんですが、どうやったら食べますか?」という相談も多いです。
特に初心者さんに多いです。
これはズバっと断言しましょう。
どうやったら食べるかじゃなくて、どうして食わないのかを考えろ」と。
食わない個体には食わないなりの根本的な原因が必ずあります。
それを改善しないことには、いくら策を練っても無駄です。
食わせる為に必要な最大のポイントは、食わない理由を探して改善することなんです。
それを省略して対策ばかり気を取られ、上手くいかなかった場合、人はみな「休眠期だから」とか「食わなくて当たり前」という言い訳ばかりするようになります。

その他にも「FHはアシストが必須」や「餌は一週間に一匹」、「食べない時は紙袋に入れて一晩」等、どれも根拠はありません
もし興味があれば、ちまたで囁かれている噂を検証するのも面白いかも知れません。

以下、小耳に挟んだ噂です

・餌を食べるタイミングと、潮の満ち引き(潮見表)
・餌を食べるタイミングと、天気(高気圧&低気圧)
・メスの脱皮の度に、受精する時としない時が交互に来る
・コンソメスープに浸したマウスを与えると拒食から立ち直る
・ケージ内で運動不足になると拒食する(ケージの広さが必要)
・小さな餌を与え続けると、頭が小さいまま育つ
・リタイアマウスを与え続けると、内臓疾患で短命になる

正直、どれも眉唾で信憑性は薄いですが、昔からの伝聞には真実が潜んでいるのもまた事実。
これを踏まえて普通に飼育するのもよし、繁殖をさせるのもよし、噂を検証するのもよし、皆さんも変化の少ないボール飼育に張りを(略

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